和辻哲郎『風土 人間学的考察』②

和辻哲郎『風土 人間学的考察』20160724②.mp3 2016年7月24日定例読書会録音。和辻哲郎『風土 人間学的考察』の二回目です。今回は和辻が風土に着目した動機がハイデガーの『存在と時間』を読んだ事だったことにまず触れています。時間だけではなく空間もまた人間存在を規定する要素になるのではないかということから、和辻は風土を「モンスーン」「砂漠」「牧場(私達が良く知っている牧場とはまた異なったニュアンスがありますがその点は次回以降に触れます)」3カテゴリーに分類し、人間は出自に基づきそれらいずれかのカテゴリーの特性を纏った存在になると主張する訳です。この回の後半では「モンスーン」、アジア的な人間存在がどういうものであるのかの考察が進められます。

続きを読む

和辻哲郎『風土 人間学的考察』①

和辻哲郎『風土 人間学的考察』20160724①.mp3 2019年7月24日定例読書会録音。今回から和辻哲郎の『風土 人間学的考察』をご紹介致します。 土地土地の習慣や人の精神性に言及するとき「風土」という概念を用いることがありますが、前提となっているのはこの本で書かれていることだと思われます。環境によって人間の精神の在り方が規定されるという考え方は魅力的であると同時に、その極端な環境決定論的な発想には異論が多いこともまた事実です。いずれにしても「風土」という時の無意識的に依拠している思想というのを直視する姿勢が、哲学的に真正な態度ではないかと思う訳です。 初回は和辻哲郎の紹介、そして「風土」という言葉を成り立たせる根本思想についてお話ししていきます。

続きを読む

町屋良平『1R1分34秒』④

町屋良平『1R1分34秒』④20190407.mp3 2019年4月7日定例読書会録音。町屋良平『1R1分34秒』の最終回でございます。私見ですが、この小説の軸になっているのは「自己閉塞と閉塞した自己同士の邂逅」ではないかと思います。現代人が自己本位であるということは云われて久しいですが、その中でも社会関係を構築して他者と生きざるを得ないのもまた一つの側面です。ボクサーである主人公と、彼のトレーナーのウメキチとの関係もそう描写されています。人間関係は必ずしも仲が良い/悪いということでは捉えられず、衝突を繰り返しながら互いの価値観のすり合わせを日々少しずつ確認することを通じて繋がりを形成していくことではないかということを改めて考えさせられます。 そういう意図があるせいか、この作品は登場人物の関係全体が俯瞰できないですし個々の心情を細部まで捉えることが出来ません。しかしだからこそ、主人公と同じ目線でもって「人間そのものを読むことの困難」を追体験出来る構成にもなっています。 そして読了後は映画kids returnを見終えた時と同じような感覚を抱きました。「この主人公は今後どうなるのか?」その解釈のパターンは読み手の数だけあるでしょうし、読み手のその時の精神状態で作品全体の印象もまた変わってくるように思われてきます。

続きを読む